栗林歯科医院の実現したい野望
2007年度は上昇に転じたわけだが、上昇したのは例年度以来、19年ぶりのっとも、1994年度の自給率上昇は、イレギュラーな事例にすぎない。
20年度に冷夏・長梅雨を受けてコメが凶作となり、国は緊急輸入を実施した。
自給率は前年度比で9ポイント低下して19%になった。
翌21年度にはコメの作況が回復したため、35%という元の水準に戻ったが、これが自給率上昇としてカウントされているわけである。
そうした特殊な事例を除いてさかのぼると、自給率の上昇は、例年度に前年度比1ポイント上昇の95%になって以来、銘年ぶりということになる。
農水省によると、2007年度の自給率上昇に寄与したのは、小麦(生産量が過去19年で最高になった)、コメ(人当たりの消費量がW年度は刷・485に増加した結果、常に自給率の高いコメが全体に占める割合が上がった)、砂糖類(原料になるてんさい、さとうきびの収穫量が増加した)などである。
具体的に言うと、小麦の国際商品市況の高騰が、好天も味方して北海道など国内主要産地での小麦生産量の増加につながったほか、パンやめん類の相次ぐ値上げに直面した家計が主食に割安なコメを選好したことが主因である。
先物投機で原油や穀物の価格が高騰を続けるという経済面でのショック現象が、結果として、日本の食料自給率のわずかな上昇につながったわけである。
「食料安全保障」という奇妙な概念だが、筆者は素朴な疑問を抱いてしまう。
そもそも、食料自給率の高低にこだわるべき農水省は、日本のカロリーベースの食料自給率が先進国の中でも最低レベルにあることを問題視しており、これを2015年度までに35%に引き上げ、将来は00%超を目指すという目標を掲げている。
日本の食料の多くが「海外依存」であることに注意を喚起しつつ、国産品に依存する割合の引き上げを図ろうという方針だ。
農水省はその際に「エネルギー安全保障」と類似の概念として、「食料安全保障」という、おそらくは日本独自の概念を持ち出している(ちなみに、この考え方を「食糧安全保障」と表記する場合も多い。
本来の語義としては、「食糧」は主食の穀物のことで、「食料」よりも狭い概念なのだが、最近ではあまり細かく区別しなくなったようである。
本書では「食料安全保障」と表記する理由はあるのだろうか。
まず、「食料安全保障」という考え方自体が、もう一つすっきりしない。
自由貿易における比較優位を考えると、他国よりも生産性が低い農作物については輸入に頼って、より生産性が高いものに特化するほうが、経済全体のパフォーマンスは向上するはずである。
それが実現しないとすれば、戦争や海上封鎖、経済制裁など国際関係上の極度の緊張状態や、農作物輸出国での異常気象や疫病流行による極度の不作といった、何らかの異常事態が発生していることが前提になる。
つまり、「食料安全保障」というのは、「平時」ではなく「有事」を前提にした概念だということである。
だが、例えば有事の際に「兵糧攻め」にされるのを防ごうとしても、結果に大した違いはないのではないか。
また、仮に自給率が100%になったとしても、それで国の安全保障は大丈夫ということにもなるまい。
仮に食料が完全に自給できても、原油の供給途絶が長期化すれば、日本はそれだけで万事休すという事態になってしまう。
安全保障という観点からの食料政策では、食料の輸入先を含む各国と良好な外交関係を日頃から築き上げておくことこそが、何にも増して重要であろう。
このほか、「穀物自給率」(飼料用を含む、重量ベース)、「主食用穀物自給率」(重量ベース)といったデータがある(前ページの図、参照)。
さて、筆者には、政府がカロリーベースで見た自給率の数字にのみこだわり続けるのも脈に落ちない。
家畜については、前述のような計算ルール通りに飼料の自給率を掛け算すると、極端に低い数字になって自給率全体を押し下げてしまう。
この点を現実離れしているとして問題視する論者も少なくない。
ここで、先の3の生産額ベースの食料自給率を見てみると、カロリーベース自給率の数字とかなり異なっていることがわかる。
生産額ベース自給率は、2007年度(速報)は17%(前年度比2ポイント低下)で、食料全体の3分の2が自給できている計算になって農水省は、「輸入作物の価格高騰への対応策として、輸入しなくても済むように国内で増産する、すなわち自給率を引き上げるほかはない」という考え方を前面に出している。
しかし、この主張は、「量」の問題と「価格」の問題を混同している感がある。
要するに、農水省の方針は、自給率という数字の引き上げにあくまでもこだわり、基本的に自由貿易とは相容れない高率の関税などによって農産物の輸入を抑制しつつ、国内農業を保護し続ける(同時にコメからの転作を含め、各種農産物の増産を多額の補助金供与などで促し続ける)、というものである。
では、このやり方を続けると、いったいどのような事態になるだろうか。
高い国産品を買わされる消費者。
であって、そちらが是正されるべきだ」という主張にも説得力がある。
カロリーベースの自給率が高い先進国としては、オーストラリア(237%)、カナダ(145%)、米国(128%)、フランス(122%)などが挙げられる(2003年度)。
オーストラリアやカナダはともかく、米国やフランスの自給率が高い、すなわち大量の輸出が恒常化している背景には、農家に対する厚めの補助金支給という政策措置がある。
このことが、結果として発展途上国などの農業生産を圧迫しており、世界全体における農産物の安定供給を阻害する要因になっている、という主張である。
国産品の価格水準引き下げにつながるような各種農作物の増産は、これまでの転作奨励策がうまくいっていないことからも、現実問題としてなかなか加速しにくいだろう。
なぜなら、価格が高いもの(つまり農家が苦労をした結果、それなりに儲けが出ると見込まれる作物)でなければ、わざわざコメから転作するなどし宝多大な苦労を重ねて栽培しようとするインセンティブが働かないからである。
ボランティア精神にのっとって、あるいは老後の楽しみとして採算を度外視して農業をやる人は別だが、普通、人がある仕事を選択するのは、それによって、少なくとも食べていけるだけのお金が手に入るからである。
そうした根本的な部分を踏まえずに、ただ「農業を振興しろ、自給率を引き上げろ」と主張しても、現実離れした話にしかなるまい。
農家ではなく、今度は消費者の側の利益を考えてみよう。
輸入の減少によって安価な海外産の農作物が手に入りにくくなると、選択の余地が乏しくなった日本の消費者は、価格が割高なままの国産の農作物を、これまでよりも多く買わざるを得なくなる。
ただでさえ賃金の伸び悩みと原油・食品の「悪い物価上昇」の相乗効果で苦しくなっている消費者の懐は、ますます圧迫されることになってしまい、主婦層は不満をっのらせるだろう。
自給率の引き上げにこだわる理由として、別の角度の論点である「食の安全」も考えられるだろう。
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